大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)2613号 判決

控訴人安西田鶴恵が控訴人大島新三に対し東京都渋谷区千駄ケ谷四丁目五七九番地所在の宅地二十坪の明渡請求権を有しないことを確認する。

控訴人大島新三は被控訴人に対し前項の土地に存在する木造亜鉛茸平家建一棟建坪十一坪二合五勺の建物から退去してその敷地二十坪を明渡すべし。

被控訴人の控訴人安西田鶴恵に対するその余の請求及び控訴人日野敏に対する請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、各その一を控訴人安西田鶴恵、同大島新三及び被控訴人の各負担とする。

この判決は第四項にかぎり被控訴人において金五万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

二、事  実

控訴人日野敏同大島新三訴訟代理人は原判決中被控訴人勝訴の部分を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は被控訴代理人において、仮りに百歩を譲り本件建物が訴外似鳥吉治の所有であつたとしても、同人は罹災後法定期間内に被控訴人に対し借地権譲受の申入をしていないのみでなく、同人が罹災前被控訴人から借家していた場所と現在使用している土地とは異なつているのであるから、似鳥は本件土地使用につき被控訴人に対抗し得べき権原を有するものではなく、いづれにしても控訴人日野及び大島が被控訴人に対し明渡義務あることは多言を要しないと述べた外、原判決に事実として記載されたところと同一であるからここにこれを引用する。

<立証省略>

控訴人安西田鶴恵は本件当審における口頭弁論期日に出頭せず、陳述したものとみなすべき準備書面も提出しない。

三、理  由

本件は控訴人(原審原告)安西田鶴恵において控訴人(原審被告)日野敏、同(同)大島新三に対し、東京都渋谷区千駄ケ谷四丁目五七九番地所在の宅地二十坪は自己の所有で日野は右地上に建物を所有し、大島はこの建物に居住し、ともに控訴人安西の所有権を侵害しているとの理由で建物収去、土地明渡を求め、この訴訟が第一審に係属中(原審昭和二十四年(ワ)第四二八八号)被控訴人(参加人)加藤章治において、同人は右安西から右土地二十坪を含む同番地宅地二五四坪五合二勺を賃借したとし右賃借権にもとづき右土地二十坪の明渡は自己の権利であることを主張して民事訴訟法第七十一条にもとずき右安西対日野、大島の訴訟に参加し(原審昭和二十五年(ワ)第六七五九号)、安西との関係では同人が日野大島に対して右土地明渡を求める権利のないことの確認、日野、大島との関係では右土地の明渡をそれぞれ求めるものである。第一審においては右参加人加藤章治の請求が認容せられ原告たる安西、被告たる日野、大島の敗訴に帰したところ、敗訴の当事者である日野、大島において勝訴の当事者たる加藤に対し控訴を提起したのである。本件は民事訴訟法第七十一条による同法第六十二条の準用があるものであるから、右日野、大島の控訴は他の敗訴者である安西のためにもその効力を生じ、安西対日野大島間、加藤対安西間、並びに加藤対日野大島間の三個の争は当裁判所の審判の対象となるものである(昭和十四年(オ)第三八〇号、第五一五号昭和十五年十二月二十四日言渡大審院判決、大審院民事判例集第十九巻二四〇二頁参照)。

東京都渋谷区千駄ケ谷四丁目五七九番地所在宅地二五四坪五合二勺が控訴人安西の所有であり、被控訴人はこれをかねてから普通建物所有の目的で賃借し、地上に家屋五棟を所有していたところ、右建物は昭和二十年五月二十五日空襲により罹災滅失したけれども賃借権は存続し、これにつき被控訴人と控訴人安西との間に被控訴人が右宅地につき右目的で期間は昭和三十六年十月三十一日迄という借地権を有することを確認するとの確定判決(東京地方裁判所昭和二十三年(ワ)第三三七八号借地権確認事件昭和二十五年三月二十九日同庁言渡同年十二月三十日確定)があることは、公文書であるから真正に成立したものと認めるべき丙第一ないし第三号証の記載に本件口頭弁論の全趣旨をあわせてこれを認めることができる。

右宅地上二十坪の部分に木造亜鉛茸平家建一棟建坪十一坪二合五勺の家屋が存在することは当事者間に争がない。控訴人安西及び被控訴人は右家屋は控訴人日野の建築所有するものであると主張するところ、成立に争のない甲第一号証(被控訴人はその成立を明らかに争わない)によれば右家屋は控訴人日野の所有として家屋台帳に登載せられたことは明らかであるが、右登載の事情は後記のとおりであつて、これをもつて直ちに控訴人日野の所有であることの証拠とすることはできず、また成立に争のない甲第二号証(被控訴人はその成立を明らかに争わない)には控訴人日野において右家屋の取払を控訴人安西に約した旨の記載があるが、同証もまた後記事情から考えると直ちに採用し難いところであり、その他に右家屋が控訴人日野の所有であることを認めるに足りる的確な証拠はない。かえつて控訴人安西においてその成立を認め被控訴人において明らかに争わないから真正に成立したことを自白したものとみなすべき乙第一号証の一、二、同第二号証、同第三号証の一ないし四の各記載、原審及び当審における証人似鳥吉治原審における証人荒木君子、当審における証人岡庭豊の各証言、当審における控訴人日野敏本人尋問の結果をあわせると、訴外似鳥吉治は昭和十五、六年頃から被控訴人からその所有の前記建物五棟のうち一棟を賃借してこれに居住していたが昭和二十年五月二十五日空襲によつて右建物が罹災焼失したので、その直後右罹災建物の敷地にまたがる約二十坪の部分に、自ら建坪約四坪のバラツクを建て、その後昭和二十一年一、二月頃地主である控訴人安西から、賃借人加藤の所在も分らず他に賃借の希望者もあり、いずれ区わけしてきめるまでは使用してよいとの承諾を得て右土地を使用し、その建物に手を入れて現在のような右家屋にしたものであつて、これは右似鳥の所有であり、同人は右家屋に居住し、妻の妹である訴外人荒木君子、同人の子である控訴人日野、君子の娘の夫である控訴人大島らを同居せしめるにいたつたものであるが、その後右似鳥は一時食料事情のため田舎に行つていた間に区役所から係員が来て右君子に対し右家屋につき所定の届出等の手続がすんでいないことを指摘し現に住んでいる人の名を問い、すぐその手続をするよう申したので、右君子においてあわてて控訴人日野の名義に届出をし、その結果家屋台帳にも同様の登載がなされたものであつたが、後に似鳥はこれを知つて家屋台帳上自己の名義に訂正した事実を認めることができる。しからば右家屋が控訴人日野の所有であることを前提とし、同控訴人に対してこれ収去してその敷地二十坪を明渡することを求める控訴人安西及び被控訴人の請求はともに失当であり、また控訴人安西に対し被控訴人が控訴人日野に対する右請求権あることを前提として控訴人安西にその請求権のないことの確認を求める被控訴人の請求も結局失当であり、右部分はいずれもこれを棄却すべきものである。

次に右建坪十一坪二合五勺の家屋に現に控訴人大島が居住することは本件当事者間に争ない。控訴人安西は右土地の所有権にもとずき、被控訴人は前記賃借権にもとずき、いずれも控訴人大島に対し右家屋から退去してその敷地二十坪を明渡すべきことを求め、なお被控訴人は控訴人安西に対し同控訴人が控訴人大島に右明渡を求める権利のないことの確認を求めている。これに対し控訴人大島は右家屋に居住してその敷地を占有する正当の権原として、右土地二十坪は似鳥吉治において地主である控訴人安西から建物所有の目的で適法に賃借し、その地上に右家屋を建築所有するものであり、控訴人大島は右似鳥の占有の範囲内で右家屋に同居するに過ぎないと主張する。前記認定の事実によれば被控訴人は前記土地二十坪を含む二五四坪五合二勺につき昭和二十年五月建物罹災の当時から引続き借地権を有するものであるから、右土地につき建物滅失の時以後権利を取得した者に対し賃借権及び地上建物の登記がなくても対抗できることは、戦時罹災土地物件令第六条、罹災都市借地借家臨時処理法第十条によつて明らかである。このような賃借権は借地上の妨害に対し直接これを排除し得るものと解しなければ右法条の法意を貫くことができない。控訴人大島の主張する似鳥が控訴人加藤から土地使用を許されたとの事実は、前認定のところによれば昭和二十一年一、二月頃であるから被控訴人は右物件令第六条により対抗し得るものであり、従つて控訴人大島は右似鳥に土地使用の権利ありとの事実をもつて被控訴人に対抗することはできず(もつとも右似鳥は建物罹災当時の建物賃借人として右二十坪中少くとも右賃借建物の敷地部分については法定期間内に借地権者である被控訴人に対しその借地権の譲受を申出ることができたわけであるが、右申出の事実は控訴人のなんら主張しないところである)、被控訴人に対し右家屋から退去してその敷地二十坪を明渡すべきものである。このように借地権者である被控訴人が直接控訴人大島に対しその借地上の妨害を排除し得る立場にあり、現にその権利を行使してそれが訴訟上認容せられる以上、土地所有者たる控訴人安西が自ら所有権にもとずき控訴人大島に対し右土地を自己に明渡すべきことを求めるのは、仮りに右似鳥の土地使用が本件土地の権利関係が判然するまでのいわゆる一時使用であり、従つて本来ならば賃借人たる被控訴人に対する賃貸人としての義務履行のためにも一たん右土地の明渡を求め得る関係にあるとしても、すでにそれはなんらの実益なきものとして排斥せられるべきものであると解するを相当とする。しからば控訴人安西が控訴人大島に対し本件建物から退去しその敷地二十坪を明渡すべきことを求める請求は失当として棄却せらるべきものであり、従つてまた控訴人安西に右明渡請求権はなく、そのことの確認を求める被控訴人の控訴人安西に対する請求は、本件訴訟において控訴人安西が右請求をしている以上、その確認の利益あるものとして認容すべきである。

次に控訴人安西の控訴人日野、同大島に対する損害金の請求については、その請求の理由のないことは原判決理由の説明するとおりであるからここにこれを引用する。

しからば被控訴人の請求は右の限度において正当として認容し、その余の請求及び控訴人安西の請求はいずれも理由のないものとして棄却し、これと異なる原判決は右の限度において変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条第八十九条第九十二条第九十三条第九十四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)

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